2006/06/17 土曜日

組織学習のホリスティックなアプローチと地獄

Filed under: 読書, 経営戦略 — 咲本 @ 03:58:18

どうやら仏教を学ぶことからのビジネスへのアプローチという本がこれから次々と出てきそうな流れとなってきている。

要は西洋的な一神教をベースにした要素還元主義、分析的思考、主客二元論などではダメであるとは思いながらも、西洋的思考の中で探し回ってみても仏教的知見に届かないことに気づかされるばかりで、であれば仏教を何とかうまく西洋的思考に取り込めないだろうかという方向に向かう傾向が顕著になってきたようだ。

最近購入した本の中でもその傾向は見られ、日本の著者だと先日書いたホンダの3代目社長の久米是志さんが仏教から学んだビジネスへのアプローチを書いている。
http://blog.tokeidai.net/reading/rokuharamitsu/

米国では「学習する組織」で有名なピーター・センゲが中心になって著した『出現する未来』がまさにそんな本である。
ピーター・センゲ他『出現する未来』 ピーター・センゲ他『出現する未来』



ホリスティックな知見を求めるのに、それを仏教から得ようとやたらとその手の話が出てくる。

一例として「能力開発」について触れられた一節を引用すると、

仏教理論の真髄は、人間がふたつの相互依存的な秩序のなかに存在していると見る点にある。ひとつは、顕在化された領域、見えるものも、見えないもの顕在化した現象の領域だ。もうひとつの秩序は、無限で、絶対的で、超越的で、形を超越し、思想を超越し、『もの』を超越した宇宙であり、一般に『如』と呼ばれる。そして、人間は、文字どおり、ふたつの秩序が交錯する場所に存在していて、それは最古の教典では『タターガタ・ガルバ』と呼ばれる。サンスクリット語の『タターガタ』は、仏陀、ゴーダマ・シッダールタ、釈迦牟尼の尊称で、次第に如や絶対と同義になった。『ガルバ』は、母胎や子宮という意味だ。つまり、人間は、本性として、絶対と顕在が交錯する母胎に存在していることになる。どちらか一方に存在しているわけではなく、両方に存在している。そして、これが仏教の非二元論的な世界観、つまり、顕在は絶対がなければ存在せず、絶対は顕在がなければ存在しないという世界観のカギだと思う。ふたつは不可分で、相互に浸透し合っている。仏教理論では、人間は絶対界にも顕在界にも存在しているので、能力の開発が可能だという。(p.268)

彼らの仏教への理解には大いに疑問な点もあるが、たとえまともな理解ができていないレベルでも西洋の科学観よりもずっとよいという認識なのであろう。

さらに続いて、

もうひとつのポイントは、いつ、どのような形で理論が重要になるかについての仏教徒の考え方だ。仏教徒はよく『まずは修行と奉仕に重点をおくべきだ』と言う。心が静まるまでは、思想や理論について語るのは頭でっかちになるだけで、自己啓発の邪魔になる。
ただし、理論的な考え方が必要な時は来る。修行を重ねて、理解できないことを経験した時、理論が必要になる。こうした超常体験を『世俗的』な考え方、あるいは『物質主義』の考え方と言ってもいいが、そういう考え方で理解しようとすると、修行は逆戻りする(p.269-270)

と、理論ありきを批判していて修行ありきだという、ちょっとだけマシではないかと思えることも述べられている。

80年代前半にニュー・サイエンスが流行していたが、そちらへの揺り戻しのようなことになっているのではないかと一瞬思わせるが、多少下火になっていたホリスティックなアプローチをそのまま踏襲しただけではなく、それらの研究に大きな進展が見られることもあってのことなのだろう。

それらの進展とは、マラトゥーナとヴァレラによる『知恵の樹』に端を発して河本英夫によって決定的に注目されるようになった「オートポイエーシス」、シェルドレイクの「形態形成場」の理論から日本では清水博のような「場」の理論へのアプローチ、ラマチャンドランらによる脳科学の研究など、仏教的知見と少しは相性のよさそうな研究が増えてきていることである。

さらには、ヨガやスローフードの流行、LOHAS運動、三輪明宏や江原啓之らの人気という、社会現象的にも追い風となる事柄が増えてきていることにも支えられたものなのであろう。

私自身はそれら学者の書籍を読みはしているものの、仏教からの引用元が修行もしたことのない理屈だけで理解しようとする仏教哲学者の知見から学び損なった程度のものなのであり、そう考えると細木和子じゃないけれど「あんたたち、そんな習い損なったものを利用して本なんか出して金儲けしていたら地獄に堕ちるわよ!」という恐ろしいことをやっている人達なのかもしれない。

少なくともそんな仏教のことをなめた真似をやるなんてこと、私は夢にも思わないのであった。

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