身体論からの収穫
身体論関連の本をチョロチョロ拾い読みしてみた。
有名なところでは廣松渉『世界の共同主観的存立構造』、市川浩『<身>の構造』、中村雄二郎『共通感覚論』。
一般的に名前が売れているところで養老孟司『日本人の身体観』、『身体の文学史』。
そのほかに、湯浅泰雄『身体論』、『「気」とは何か』、『宗教経験と身体』、『気・修行・身体』。
養老氏については20年近く前に『唯脳論』を読み、その時に大胆でユニークな切り口だなあとは思いながらも、全てを脳、とりわけ大脳の働きだけで論じられるとの立場に、岸田秀のいわゆる唯幻論以上にえもいわれぬ違和感を感じ、それ以降はしばらく氏の著作に触れることがなくなっていた。
近年大ヒットした『バカの壁』以降になって、違和感を持ってしまうかなあと思いながら読んでみるという感じ。
ところが『日本人の身体観』を読み始めてみると、廣松、市川の両哲学者が取り上げられており、その明解に批判されるお手並みには驚かされた。
これは一つに哲学の長年引きずってきた精神と身体との議論から自由でかつ唯脳論という哲学者にはあり得ない地点から批評していくことによって可能となる。
ちなみに『身体の文学史』において三島由紀夫事件のけなし方も痛快だ。(私はもともと三島が大嫌い)
何はともあれ、養老氏の独特の鋭い批評には恐れ入った。
氏の展開される「脳化社会」という切り口も説得力がある。
ただ依然として残る私の違和感があって、それは人間らしさを司っているのは確かに大脳となるわけだが、他の脳の司る人間における動物性もあるのであり、そこをバッサリ切り捨ててしまうから議論は明解になる一方で、切り捨てられたものが少なからずあるわけであって、その点において大いに違和感が残るのであった。
ということで今回養老氏の説には今まで感じていた以上の評価すべき点を発見したことは収穫であったわけだが、それ以上に大きかったのは湯浅哲学に初めて接したことだ。
湯浅氏流に言うと、養老氏、廣松氏、市川氏、中村氏の説はいずれも神経回路モデルからいくと、「感覚神経」と「運動神経」 にまつわる発言であることになる。
だが、神経には第三の神経として「自律神経」があるのであった。
それぞれの神経の脳とのつながり方は、感覚神経と運動神経は大脳皮質、自律神経は脳と脊髄の連結部にある脳幹なのである。
大脳皮質は眼や耳といった身体の一定の器官と結びついているが、脳幹は快・不快といった感情・情動と深く関係しているので、全身的なものであって特定の器官とだけ結びついたものではない。
この指摘はものすごく重要なのであるが、感情・情動というところを含めて切り込んでいくことを四人の論者とも行わないわけなのだ。
それはやはり西洋的な心身論の範疇に入ってしまうがゆえの限界というべきか。
哲学・思想系の有名な論客がこのとおり人間のとても重要なところについて無視あるいは想定の範囲外としているくらいなわけだから、当然ビジネス系の論者もそこについては考えがおよぶにいたらない。
例えば、ハーマンモデルも人間の思考構造についてのものなので大脳の話。
情動全般についてはビジネスマンの行動の大きな要素のひとつになるだろうし、お客様の商品の購入というところでも重要なはずなのに。
さて、湯浅氏はそこで西洋的心身論を視野に入れながら、東洋的な心身論を展開していく。
具体的には僧侶や武道、芸能における修行、 あるいは瞑想やヨガ、東洋医学などだ。
こういったところも含めた思想的基盤が「近代」にどっぷり浸かりきってしまった私たちにはどうしても必要だ。
ここで最近読んだ和田登氏の『疲れない体をつくる「和」の身体作法 能に学ぶ深層筋エクササイズ』と個人的にはつながっていく。
あっ、早くロルファーの方にエクササイズの申込しよっと(^^;
安田登『疲れない体をつくる「和」の身体作法―能に学ぶ深層筋エクササイズ』
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