一日に二度聴いたチェリビダッケのブルックナー交響曲第8番
休日らしく?最近CDを入手したばかりのセルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団演奏のブルックナー交響曲第8番ハ短調(ノヴァーク版)を聴く。
クラシックファンならずとも、第4楽章の冒頭部分はよくBGMに利用されているので、耳にしたことがあるはず。
いやあものすごい演奏で、1時間40分にものぼる大曲に鳥肌が立ちっぱなしだった。
あまりにも感動したので、今聴いているのは本日二度目。
どんなところに鳥肌が立ったかというと、
- 18歳の頃聴きに行って大いに感動した薪能に通じるともいえる美的感覚。強いて言えば、ブルックナーとは全く毛色の違った曲だと思われているにもかかわらず、ジョン・ケージ作曲「龍安寺」を聴いた時の感覚に近いかもしれない。禅的美意識?
- それはなんともいえない音の消えていき方と無音の状態、無音の間(ま)の取り方の妙味。
- 全体的にスローテンポであるのに、冗漫なところは微塵も感じさせず、ひとつひとつの音を味わえる。
- 安易な感情的表現は感じられないのに細部に至るまで緻密で表現力豊か。
- フォルテシモが長く続いても、金管楽器は苦しそうに息の乱れを感じさせることなく、太くて渋い音色でかつ繊細に演奏しきっている。
う〜むと、演奏の素晴らしさに唸りつつ、付録の解説中にあるチェリビダッケのご子息による解説を読むと、
ブルックナーは父の人生において、特にその後半生において最も重要な作曲家でした。ブルックナーはいわゆる「終わり」と「始まり」というコンセプトを音楽で表現することに成功したという意味で父にとっては特別な存在だったのです。(中略)
父は、音楽のいわゆる解釈ということを嫌っており、むしろ音楽の中でその瞬間瞬間に起きる現象に耳をかたむけるという思想を持っていました。そしてブルックナーの作品の中では、その「終わり」からの「始まり」と、その過程で起きるあらゆる現象が見事に体現されていると思っていたのです。(中略)
「終わり」からの「始まり」というコンセプトは父にとっては絶対的なもので、ほとんど「再生」と同じ意味を持っていたようです。
と書かれている。
さらには映画「チェリビダッケの庭」についての解説で
いわゆる禅の「輪廻」の思想は父が全ての音楽に対して持っていたものですが、特にブルックナーでそれを表現できたのです。
とも書かれている。
日本の指揮者からは未だ日本的ともいうべき美意識を感じたことがないのだが、とりわけチェリビダッケから日本を感じるのは、これら解説されている佛教的側面によるところが大きいのかと思う。
先程「龍安寺」と書いたが、実際のお寺のイメージでいうと「高大寺」のライトアップといったところか?
もうひとつ実際の音楽と解説とを照らし合わせてとても気になったのは、
父は、音楽のいわゆる解釈ということを嫌っており、むしろ音楽の中でその瞬間瞬間に起きる現象に耳をかたむけるという思想を持っていました。
という箇所。
チェリビダッケは佛教的思想を持ってはいるが、というか、であるがゆえに、ロジカルに音楽を組み立てていくことを第一にするわけでなく、佐渡裕のように音楽に酔いしれつつ熱情的になるわけでもなく、瞬間瞬間に起きる現象に耳をかたむけるわけなのである。
つまりは自分自身の美意識を暗黙知的にその瞬間瞬間の音に潜入しながら表現していくとでもいうべきか。
こうしてブルックナーが好きな一般的クラシックファンからすれば、一見解釈しすぎてものすごくクセのあるブルックナーと評されるであろう演奏となる。
でもチェリビダッケ自身はそこに奇をてらう目的など微塵もないどころか、いたって自然で心地よいサウンドであると思っていたことだろうし、私もそのように感じるのである。
クセがあると評する人達は、それは「ブルックナーの交響曲とはかくあるべし」と、大多数の演奏に共通する特徴がないと不安になってしまうということだけなのだろう。
余談ではあるが、大編成のオーケストラとなるブルックナーの交響曲を、ここまで神経をいきわたらせた演奏をするには、とんでもなく時間をかけて猛特訓をしたに違いない。
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