ブルックナー交響曲第5番聴き比べ
年末特集というわけでもないが、久しぶりにブルックナー交響曲について。
中でも私の好きな第5番を集めて感想メモを書いておく。
なぜ、ブルックナーの4番や8番ではなく、5番なのか?
それは、ひとえに私の好みということに尽きる。
それに加え、5番の演奏ってアルバムとしてさほど売れるとも思えず、そのわりには指揮者として曲を仕上げるには練習に相当の時間を要する上に、オーケストラに力量がないとよい演奏にならないというふうに、アルバム発売に至る苦労は並大抵ではないことが予想されることから、この5番を出しているということは、相当ブルックナーへの思い入れがあるということに違いなく、どのアルバムを選んでみても、それなりのクオリティの高い演奏が揃っていると考えられるからだ。
Bruckner: Symphony no 5 / Celibidache, Munich PO
↑ブルックナー5番の感想が以下続くわけだが、5番を聴いたというには何を差し置いてもチェリビダッケ指揮ミュンヘンフィルを聴くべし。
ほかの指揮者と比較しようのない領域にまでいってしまっている。
晩年のチェリ特有の他と比べるととてつもないゆったりとしたテンポで、全曲通すと87分39秒にもなり異例の2枚組のアルバムというものであるが、弛緩したところは微塵もなく、最初から最後まで緊張感を強いられる。
緻密なアンサンブルから金管のフォルテシモまで誤魔化したり崩れたりすることもなく、その完璧さと壮大さから確実にあちら側にいかせてくれる。
私はもう100回以上聴いていて、いつの場合でも感動して鳥肌が立ってしまう。
具体的にチェリがどのようによいのかについては、過去のブログエントリーにたくさん書いてきているので、それらを参照願いたい。
Sergiu Celibidache, SWR Stuttgart Radio Symphony Orchestra / Bruckner: Symphonies Nos. 3-5, 7-9
↑今のタイミングではミュンヘンフィル版は中古でしか入手困難なのだろう。
そんな時はこちらのシュツットガルト放送交響楽団のものでチェリの演奏の一端をうかがい知ることができる。
ただ、晩年の演奏にはいる前の時代のものであることから、あのテンポ設定にはなっていないタイミングであることと、ミュンヘンフィルのような迫力がないので、少し物足りなさが残る。
Bruckner Sym.5: Jochum / Concertgebouw.o (1986 Live)
↑ブルックナーといえばヨッフムの演奏が一般的に代表選手のように評価されている。
こちらのアルバムはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団と1986年というヨッフム最晩年に収録されたもので、チェリほどではないにしろ、ゆったりとしたテンポで壮大な5番の世界を構築した2枚組でしか収まらない長さのアルバム。
さすがブルックナー協会の会長を務めていただけの大御所最後の5番のライブだけのことはある。
十分に感動的であるが、オケのほうがヨッフムの要求にアップアップでついていっている感と若干の演奏のムラがあるところがたいへん惜しく、ヴァントに続いて第3位の演奏と評価しておく。
Georg Solti, Chicago Symphony Orchestra / Anton Bruckner: The Symphonies
↑ゲオルグ・ショルティ指揮のシカゴ交響楽団って?と首をかしげる人もいるかもしれない。
でもショルティは交響曲0番から9番まで収録された全集まで出ているくらいであり、ブルックナーを得意レパートリーのひとつとしていたことは間違いない。
どの交響曲にもいえることなのかもしれないが、5番の演奏もブルックナーうんぬんというよりも、シカゴ交響楽団の乾いたサウンドと超絶なパワフルさ全開といったものとなっている。
ただ、この5番はブルックナーの中でもかなりパワフルさが引き立つ曲であるので、5番に関しては異色の演奏として聴き応えのあるよい演奏に仕上がっていると私は評価する。
Herbert von Karajan, Bruckner 9 Symphonien
↑帝王カラヤンもブルックナー全集を出している。
好きな人も数多くいることなのだろう。
しかし私は大嫌いな演奏のひとつ。
なぜならブルックナー5番は「商業主義」の通じにくい曲だから。
良い悪いを別にしてカラヤン=商業主義を確立した指揮者だと私は思っている。
レコードのダイナミックレンジを意識したレコーディング用の演奏、テンポや強弱の変化にメリハリをつけたり、メロディをうたわせるところをオーバーにやらせたりするようなことにより、ダイナミックな演奏に聴こえるようにすれば、聴衆は感動するのだろうという基本的認識があるように思えてしまい、音楽の背後にひそむ思想なんてどうでもよく、あとはビジュアル的にも様になるようにポーズすれば人気が出るだろうと見えてしまう。
音の強弱、テンポの変化、メロディをうたわせて、この5番を構築できるかというと、そうは問屋が卸さない話であって、カラヤンの演奏は部分部分を聴くとクオリティが高く聴こえつつ、全体として評価すると感動する演奏とはほど遠く、何も伝わってくるものがないのだ。
Nikolaus Harnoncourt, Wiener Philharmoniker / Bruckner: Symphony No. 5 (with Excerpts from the Rehearsals) [Hybrid SACD]
↑アーノンクールの演奏は秀才的な演奏といったイメージ。
取り立てて弱点のようなところもなく、相当なところまで研究し尽くして演奏しているように思う。
このアルバムにはリハーサル模様まで収録されており、その一端をうかがわせてくれる。
カラヤンからは現場の人間(演奏者)とほとんどコミュニケーションを取らない冷淡な性格をもちつつ机上だけの仕事をしているMBA卒マネージャーのようなイメージを抱くが、アーノンクールのイメージもそれに近い。
カラヤンと違う点は、ブルックナーの曲についてはるかにラディカルな研究を行っているところ。
だから実によい演奏に仕上がっているに違いはないのであるが、何かあともう一歩物足りなさを感じてしまう。
それは何なのか言葉にはしにくい。
おそらくキーワードとなるのは、現場とのコミュニケーションというところに関係しそうな気がしている。
ブルックナー交響曲第5番 ヴァント&ミュンヘン・フィル(ライブ)
↑ヴァントは晩年になってからブルックナー演奏の人気が急上昇した指揮者だけあって、この5番でもその評価されるだけのことがあると唸らせてくれる。
演奏のテーマとなるのはテンポ感ということになるかと思う。
テンポの変化のつけ方、それによる演奏表現の変化、これがものすごくうまい。
テクニックでどうこうしているといったことでもなく、それらに必然性を感じさせるものがある。
また、演奏もチェリによって超一流に仕上げられたミュンヘン・フィルと行っていることから、演奏クオリティもたいへん高い。
チェリの名盤は例外だとすると、その次に挙げてよい、かなりおススメできるアルバムであることは間違いないところ。
ブルックナー:交響曲第5番 スクロヴァチェフスキ ザールブリュッケン放送交響楽団
↑あまり期待せずに聴いたが、その予想が見事に裏切られた好演奏。
買ったきっかけもブルックナー全集として破格の安さにつらされてだったからいたし方ない。
未だにスクロヴァチェフスキの名前が覚えられず、通称「ミスターS」のほうでしか記憶できないでいる(^^;
ザールブリュッケン放送交響楽団についても、そんなオケってあったっけ?という印象。
演奏はというと、ミスターSのオケへの指導が行き渡っていて、かなり鍛えられたのであろうことが予想されるだけの繊細さとまとまりのよさを感じさせてくれる。
商業主義の流れからは縁遠い存在だったミスターSの素晴らしい演奏を知ることができてとても嬉しい。
5番においては、とりわけフィナーレ部分で通常は金管楽器がガンガン鳴っているところに木管楽器の旋律を浮き上がらせる表現に脱帽した。
すごい掘り出し物を見つけたような気持ちになった全集。
かなりおススメ。
Claudio Abbado, Wiener Philharmoniker / Bruckner: Symphony No.5
↑クラウディオ・アッバードがいくら人気指揮者だといっても、まさかブルックナー5番を出しているとは想像できず、試しに聴いてみようと思ったわけだが、これはかなりひどい演奏というか論外なダメさ加減。
たまたま演奏に失敗したというよりも根本的にだと断言する。
なぜならこれ以外にも4番のアルバムを聴き、今年のルツェルン祝祭管弦楽団との来日公演で4番をライブで聴いた上での感想だからだ。
何を血迷ったのか、巨匠と呼ばれるにはブルックナーも手がけなければいけないとでも思ったのだろうか?
アッバードがブルックナーを取り上げると、まるでヴェルディのオペラの序曲のような腰の軽さで演奏してしまう。
神々しさ、気高さ、崇高さ、神秘性、・・そういった要素をすべて剥ぎ取ってしまい、BGMで鳴っていても差し障りのないように獣の牙をすべて抜き取ってしまった演奏とでもいえばよいのか。
彼に何を演奏させても巨匠とよべるようなものとはならないとも言えるが、まあ商業主義的には売れやすいということもあって、これからも目一杯アルバム新譜が発売されていくのだろうが。
ロブロ・フォン・マタチッチ指揮、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団/ブルックナー:交響曲第5番
↑マタチッチは国内オケを指揮するため来日したりしたこともあるので、意外と知られた存在でその評価も高いが、やはりブルックナーは海外オケのものでないと評価するレベルにならない。
ということでチェコ・フィルとの演奏のものを聴いてみる。
確かに表情豊かな5番の演奏。
しかしながらチェコ・フィルだからなのか、神々しさのようなものが見えてこないことも事実。
これではテクニックが勝った演奏のような印象を持ってしまう。
もっともチェコの人たちからすると、このような演奏がウケるのかもしれないが。
チェコ・フィルのサウンド自体、クセが強いからねえ。
ブルックナー:交響曲第5番 ジュゼッペ・シノーポリ ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
↑ブルックナーは晩年まで世間からひんしゅくをかってばかりいた変態なスケベオヤジだったわけだが、変態には変態をというわけでもないが精神科医でもあるシノーポリがどんな演奏をするのか興味があったわけ。
もっとも精神科医がみんな変態だというわけではないが、精神科医かつ指揮者というだけでもある意味変態なところがあるに違いない(^^;
聴いてみると、やはり変態同士気持ちがわかるのか、素晴らしい演奏!
長年にわたってドレスデンで指揮してきたことからか、オケとの息もピッタリ合っているし、しっかり腰を据えて演奏し切っている。
世界最古のオケといわれるシュターツカペレ・ドレスデンの分厚く温かみのあるサウンドが印象的でありつつも、もうちょっと鋭さも併せ持った演奏になっていたほうがよかったかも。
とはいえ、世間であまり注目されていない演奏のわりには、私の評価は高い。
それにしても、まだまだ頑張れるだろうに、惜しい指揮者を亡くしたものだ。
クリスティアン・ティーレマン指揮,ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 ブルックナー:交響曲第5番
↑この指揮者はまだ現役バリバリだろうから、今後ともますます活躍することに期待したい、そんな演奏。
チェリが晩年率いたミュンヘン・フィルの音楽監督に就任したくらいのことがあって、まずまずの評価をしてもよい演奏だ。
ここまで読んでもらえればおわかりだろうが、少なくともカラヤンやアッバードといった超有名どころの演奏より数段レベルが高いことは間違いない。
ジャケットの気取ったポーズでの写真が、「オイ、その路線で売りたいんかい!」って、かえって将来性に不安を感じさせもするが(^^;
まあ、今後のダークホース的存在といったところ。
感想メモは以上なのであるが、 やれカール・ベームはどうしたとか、朝比奈隆はとか、クナツパーツブッシュだとか、フルトヴェングラーは?なんて言わないでほしい。
クナツパーツブッシュやシューリヒト、フルトヴェングラーのような演奏はステレオ録音であり、かつ録音クオリティがよければ是非聴いてみたいし(逆にそんなよい録音がないというのなら、いくら名演だと言われていても生で聴いたことがない以上はCDからその素晴らしさを伝えることなんて無理だと思っている)、そもそも今回の一覧に入っていない最近発売されたチェリビダッケ5番来日公演盤は単にまだ購入していなかっただけなのであり、近日購入して必ず聴いてみたい。
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もし気が向いたら激安レーベルですが一度NAXOSのティントナー盤をお聞きになる事をお薦めします。
骨太で構成感のある演奏は本当に素晴らしい。個人的に一番好きなのはヴァント&BPOですがもしティントナーがBPOやNDRのような一流オケを振ってたら多分最高だったでしょう。
晩年録音が増えたとはいえ才能に比して不遇のまま亡くなったのが残念な人です。
コメント by ブルオタ — 2006/12/31 日曜日 @ 09:55:01
情報ありがとうございます。
ティントナー盤、聴いてみます!
コメント by 咲本 — 2007/01/09 火曜日 @ 11:15:30